フィルムカメラが特別なものではなくなった今、全国には数多くの写真現像店が存在します。
写真を撮った後、私たちが気になるのは写真の仕上がり。みんなそれぞれ、お気に入りの写真現像店もきっとあるはず。
そんな中で「日々、写真を楽しむ」という想いをもって立ち上げた、京都で5年目の夏を迎えようとするお店があります。
私たちが毎日目にするSNSでも「hibiプリ」のタグで投稿されている写真を見ない日はない。
もともとの根強いファンはいたものの、昨年の夏から急激にPhotolabo hibiのフィルム現像を求め出すユーザーが増え始めます。
お店はほとんどの作業を松井恵津子さん、松井貴之さんの2人だけのスタッフでこなしているため、毎日数十本届くフィルム現像作業は、連日深夜や明け方まで及ぶ日も少なくはない。
それでも2人は決して走ることをやめない。
Photolabo hibiを支える強さは、一体どこから来るのだろう。
ないのなら作ってしまえばいい
——おふたりの出会いっていつ頃になるんですか。
恵津子:付き合い自体はもう12年ぐらいになるんですけど、デザイン系の専門学校に通っていた時の同級生ですね。私は高校を卒業してそのまま専門学校に入学したんですけど、彼は1年ブランクがあって。なので年齢は1つ違うんですけど。
——同級生なんだー。写真との出会いもその頃ですか。
恵津子:本格的に撮り始めたのは専門学校を卒業後してDPE店でバイトしていた時ぐらいからですね。フィルムから入って、もう9年とかになるんじゃないかなと思います。もともと祖父が写真が好きだったので身近な存在ではあったんですけど。
——貴之さんってもともと建築の勉強をされていたじゃないですか。どこか写真と通じる部分ってあると思うんですけど。
貴之:僕はお店始めてからですね。家にはコンデジとかはありましたけど、ほとんど触ったこともなくて。
恵津子:それこそ課題資料の記録用として撮るとか、そんなんだよね。
貴之:写真を楽しむとかそういう概念がなかったですね。
——お店を始めようとしたきっかけってどういうところからですか?
恵津子:私がフィルムにはまった時期に「カメラ日和」っていう雑誌で、フィルムに特化した写真屋さんが人気になって特集されていたことがあって、たまたまそれを目にした時に「あ、いいなぁ」と思ったんですね。でもそういう特集って東京のお店が中心だったんです。関西だったら兵庫の「FRAME*」さん、大阪の「MOGU CAMERA」さんの2店ぐらいだったんです。私は当時、遊びに来るエリアが京都だったので「京都にもこういうお店あったらいいなぁ、うらやましいな」って思いながらそのカメラ日和を眺めてました。「でもないんだったら自分で作ったらええんちゃうか」って発想に何故かなりまして(笑)それがきっかけなんですけど(笑)
——でもそういう考え方ってアーティストとかクリエイター寄りというか。今って職業も壁がないし、自分で作っていく時代のような気がしますよね。
写真との出会い方が変わってきている
——去年あたりからめちゃくちゃ忙しくなってきてるじゃないですか。今の状況ってどう思ってらっしゃいます?
恵津子:シンプルにありがたいというか(笑)
貴之:お店を始めた時よりもフィルムカメラを触る人が増えたのは素直に嬉しいですよね。
恵津子:特にこの1年は若いユーザーさんが急増しましたね。お店を始めた当初は今の私たちぐらいの30代とか、もう少し上の世代のユーザーさんが中心になっていくのかな、と思ってたんですけど、最近になって20代とか、たまに10代の高校生の方たちがフィルムカメラを始めたいとか、お父さんからフィルムカメラを貰ったからってお店に来てくれることも増えてきて、意外といえば意外ですよね。
貴之:めちゃ不思議な現象ですよね。僕らがお店を始めたのが26歳とかで、ちょうど同じ世代ぐらいが若いって言われてたんですけど、今さらに若くなってきてますもんね。
恵津子:そう、もうひと回り下になってきてる。
——なんなんでしょうね、時代に逆行してるといえばしてますもんね。
恵津子:感覚的にフィルムカメラが違うものとして見られてるのかなと。私たちの世代だとフィルムは幼い頃からあって、高校生ぐらいに写ルンですとか画素数がまだ低かった頃のコンデジがちょっと出てきて、そのあとに社会人になって金銭的に余裕も出てきて、綺麗な写真が撮れる一眼レフがやっと買える、みたいな流れだったと思うんです。
貴之:今の若いユーザーさんって一番最初に出会うカメラがたぶんスマホなんですよね。
——僕らの時代ってケータイで写真が撮れるっていうこと自体が途中からだったじゃないですか。
恵津子:写メが画期的でしたよね(笑)
——でもそこで終わってたというか。SNSもなかったからシェアすることもなかったですし。そう考えると写真との出会い方って僕らの時とは全然違いますよね。
恵津子:フィルムは時間がかかるとか、手間がかかるから新鮮っていう話はよく聞きますね。大切に撮れるって印象があるみたいで。今までに見たことのない、変わったものっていう認識なのかもしれないですね。
貴之:写ルンですの使い方が違うな、とは何年か前からずっと思い始めていて。僕らが10代の時ってそんなに特別なアイテムではなかったんですよね。でも今、写ルンですを使っている若いユーザーさんって自分の中で特別なタイミングの時に持ってたりとか。
恵津子:あーそうだね、確かに。
——えー!そうなんだ!
貴之:それすごく新鮮なんですよね、話とか聞いてて。友達と一緒にいる時間を残すアイテムになってきてるというか。
——遊び方が変わってきてますよね。
貴之:遊び方は絶対に変わってきてますね。今の10代、20代の人たちってめちゃいい遊び方してるなって思うんですよ。
——僕ら学生の時って趣味じゃない限り写真がそんなに近くになかったし、何か特別めいたものというか。
恵津子:ちょっと敷居が高いなっていうのはありましたよね。
貴之:そもそも写真で遊んでいる人たちがいるっていうことすら知らなかったですね(笑)
同じ時間を共有したい
——hibiさんはSNSでの発信も敏感ですよね。Twitterで写真紹介したりInstagramのStoriesも効果的に使ってますもんね。
恵津子:そうですね、たぶんSNS使ってる数は一番多いと思います。
貴之:SNSは基本、嫌いじゃないですね、っていうかどちらかというと好きです。写真屋さんの年齢にもよるんじゃないですかね。僕らお店始めたのが26歳とかだからSNSに対して親近感もありますし。「hibiプリ」も僕らが作ったんじゃなくて、最初期から来てくれるお客さんが作ってくれて、そのお客さんがhibiプリタグつけて投稿し始めたのがきっかけなんですよ。
——えー!!初めて聞いた!!(笑)
貴之:それめっちゃいいやんってなって、自分たちも使い始めて、気づいたらみんな使うようになってたっていう。
——今hibiプリタグの投稿数すごくないですか。TwitterでもInstagramでも毎日どこかで絶対に見ますよね。Laboさんの中でも一番使われてる気がします。
貴之:全然関係ない海外の写真とかにhibiプリタグ付いてたりしてて、これは仕事した覚えないっすよみたいな(笑)
——それ面白すぎますね(笑)、でも逆に言うとそこに人が集まってきてるっていうことですもんね。
恵津子:ハッシュタグ自体、私たちはTwitterが初期から主流だったんですよ。その時からのお客さんとのつながりも強いから、見てくれる人も多いんじゃないかなと思いますね。Twitter、Facebookが最初でその次にInstagramのアカウントを作って。で、最近になってLINEサービスを使ってデータ納品も始めて。
貴之:Twitter好きなんですよ。これは僕個人としてなんですけど。LINEでデータ納品も多くなってきたんですけど、データ送った1分後ぐらいにそのお客さんが「写真届いたー!」みたいな投稿がタイムラインの一番上に出てくるんですよ。それ見て「めっちゃ早くない?笑」みたいなリプとばしたりして笑
——そういうリアルタイムのお客さんとのやり取りっていいですね。
貴之:なんかね、同じ時間を共有してるみたいな。その感じすごい好きなんですよ。
——LINEサービスも写真屋さんとしてはすごく新しい試みのような気がするんですけど。
恵津子:写真とは違ったジャンルのショップでは使ってるのを見てたんです。データ納品っていうのも気になり始めてたのも同時期だったので、それだったらLINE使えるよねっていうところから始めました。
貴之:不便なの嫌いなんすよ。いやそれだったらフィルムカメラやってるのどうやねんって話になるんですけど(笑)おもしろい不便さは好きなんですけど、おもしろくない不便さはすごく嫌いで。始めはメールでやり取りしてたんですけど、ケータイのキャリアとかで届かなかったり、迷惑メールに振り分けられたりすることもあるじゃないですか。あれすごいストレスかかるんですよ。僕らは送る側だけど、受け取る側は不便ですよね。やっぱり使う人のことを考えたら必然的にLINEが一番いいやんって。あと写真も送れるじゃないですか。お客さんの思っているイメージも共有できるから、今まで以上に細かいコミュニケーションが取れて写真の仕上がりにも反映出来るんですよね。そのへんがLINE使い始めた理由ですね。
恵津子:言葉だけではイメージってすごい分かりにくいんですよね。例えば透明感ひとつとっても、人によって透明感って様々ですし。そういう時はLINEでキャプチャーひとつ送ってもらうようにしてるんです。そうしたら「イメージ通りに仕上がってます!」っていう感想は増えてきてますね。
——そういうやり取りってけっこうしてるんですねー。
貴之:わりと密にしてる方だと思います、写真屋さんの中では。他の写真屋さんに出してた人から「こんなに細かく聞かれることって初めてです」ってたまに言われたりしますね。
——でもそれって絶対にリピートに繋がりますよね。
恵津子:せっかく時間かけて写真撮って、お金かけて現像して、データ化したのにイメージ通りじゃなかったらめちゃ辛いじゃないですか。そういうのが私は嫌なので(笑)、それだったら聞けるタイミングで始めから聞いておいたほうがいいですよね。
——お忙しくなってきた時期って、はっきりとこのタイミングってあるんですか。
恵津子:去年の夏ぐらいですね。
——どういったことがきっかけとかってあります?
恵津子:特にこれといった心当たりはないんですけど(笑)
——あ、そうなんですか(笑)
恵津子:でも多分なんですけどTwitterのユーザーさんで若い世代でコミュニティーの広い人たちが来てくれたのがその時期なんですよ。なのでタイミング的にそうなんちゃうかなって。「あの人のTwitterを見てフィルム始めたくて」っていうのがその時期からだいぶ増えてきてる気がしますね。それまでお客さんからTwitterっていうワードはあまり聞かなかったんですよ。「Instagramとかホームページを見て来ました」っていうのがほとんどだったので。
——Twitterの広がり方が変わったなって思うのが、何年か前に写真を4枚のフォトセットでサムネイル表示で出せるようになったじゃないですか。あの4枚のサムネイル表示って世界観が出るというか。そこから写真の広がり方が変わったなって思ってるんです。
貴之:あー、でもそれはあるかもしれない。
——だからTwitterでバズってる人でも実はInstagramではバズってなかったりとか、全然いるんですよ。
貴之:確かにTwitterのほうがユーザーは若いですね。使い方も変わってきてるし。僕らの頃っていわゆるインスタグラマーがフィーチャーされていましたけど、今の若い人たちってそこに対する憧れとかあんまりないですよね。どっちかっていうと、身近にいる友達とかに影響されている人の方が多いですよね。
恵津子:写真もどんどん日常寄りに変わってきていますね。
明確にメッセージを伝えたい人が常にいる
”私たちはみなさんからお預かりしたフィルムを「写真」にすることで、「お金」を頂いています。
一般的にお金は時間の対価として認識されていて、私たちは「お金を頂くこと」=「みなさんの時間を預かること」だと思っています。
皆さんがカメラを手に過ごした楽しい時間や大切な時間、つまり人生の一部を預かっているんだと心に留めて私たちはフィルムをお預かりしています。
なので、私たちにとって、それを写真に仕上げるためにかける時間は無駄ではないし、預かったものは絶対に大切にしたいと考えています。”
2018.02.27 blog-「料金や納期について、少しまじめな話を書きました」より抜粋
——このブログ、僕は好きで。好きって表現が合ってるかわからないんですけど。ここの話は絶対にしたいなと思ってたんです。
恵津子:このブログにリアクションしてくれた人は多かったよね。
貴之:うん、メッセージもいっぱい届いた。
——「人生の一部を預かる」っていう言葉が心にすごく残っていて。おふたりの強い意志を感じました。
貴之:効率化をすると、たぶん今以上に本数は仕上げられるんですけど、こぼれ落ちていくものってまさにお客さんとのやり取りなんですよね。僕はそのやり取りが好きで、回数を重ねるごとにそのお客さんの出したい色味だとか、やっていきたいこととかがちょっとずつ見えてきたりするんですね。そしたら、もう一絞りしてもらったほうがいいとか、もうちょい露出上げて撮ってもらったほうがいいっていうのが言いやすくなるんですよ。お客さんはお客さんでそれを反映させた形でフィルムを持ってきてくれるんです。それでめちゃくちゃいい色味とか出たら最高なんです。
——お店側からしても嬉しいことですよね。
貴之:それはほんとに嬉しいですね。
恵津子:実際、何も知らないところからフィルムカメラ始めて、1年経った今の時期でめちゃくちゃ上手くなった人、たくさんいますね。
——写真ってなんなんでしょうね。シャッターを押す瞬間って選び続けているわけじゃないですか。だからそれってある意味、人生の選択なのかなって。あのブログを読んでから、そういうことを考えることが多くなったというか。
恵津子:今まで書いたブログの中で一番反響ありました(笑)こんなに見てくれてリアクション返してくれる人がいるとは思ってなくて。半分は値上げのお知らせと納期のことに関してなので、業務的な部分は大きかったんですけど、それと合わせてちゃんと伝えなきゃいけないことはあるよねってことで、ああいう形で書いたんんですけど。
貴之:「お知らせ」ってなんか違うんですよね。SNSを使っているんですけど、その先に明確にメッセージを伝えたい人が常にいるというか。その人たちに対して、さらっと値段上がりますよっていうことだけ言うのは、なんか不誠実な気がしたんです。
——そういう話というかミーティング的なことっていつするんですか。お店の営業終わった後とか?
恵津子:関係なくですね。
貴之:四六時中ですね。仕事しながらでも話しますし、ご飯食べてる時とかでも、それこそ遊んでいる時でも。ずっと話してますね。
恵津子:アイデアが浮かんだらとりあえず言うみたいなところから始まることが多いですね。
——僕は外から見てて、hibiさんの主導権というか方向性を決めていくのってやっぱり恵津子さんなのかなぁと思って、いやでも実は貴之さんなのかなとか、そんなこと考えてたんですけど、そういう話じゃないんですね。
恵津子:担当しやすいジャンルっていうのが違うんですよ。私はやっぱり作業がメインになるんですけど、それ以外の細かい調整であったり、企画とかのプランニングだったり設計的な部分はわりと苦手なほうなんですね。逆に彼はそういうところが得意だったりするんですけど。
貴之:役割分担がしっかりしていて、恵津子さんの場合はディテールなんですね。細かい部分を精密に緻密にやっていくっていう。で、僕はどちらかというと、もうちょっと大枠というか、フレームワークが得意で。どうしてそれが必要なのかとか、誰のために必要なのかみたいなのを考えることが役割なのかなって。こういう理由だから、こういうものが必要じゃないかって投げて、それやるためにはこういう感じのピースを当てはめていこうかって。だからどっちがどっちで主導的にやってるっていうのはあんまりなくて。常に僕がボールを投げて、それを恵津子さんが打ち返して、また投げてっていうのをずっと四六時中やってるような感じですね。
これからのhibiという場所
——hibiさんはイベントも頻繁に開催されてますよね。
貴之:あんまりないですよね。写真屋さんでイベントやってるのって。
——どちらかというと写真屋さんってworkshopとか写真教室的なイメージがありますよね。
恵津子:うちも始めはそうだったんですけど、3年ぐらい前からみんなで楽しむイベントの方に完全にシフトしましたね。
貴之:どっちかっていうと僕らが大事にしてるのって、そこですね。
——やっぱり直にお客さんと触れ合えるからですか?
恵津子:私たちとお客さんではなくて、お客さん同士ですね。SNSで名前は知ってるけど会ったことないとか、リアルに写真やってる友達が少ないとか、そういった出会いのきっかけを作りたいというか。
貴之:遊びとか趣味で写真撮ってるのって、写真家として表現者としてやってるところから、一段落ちたじゃないですけど、そういった偏見を持ったり、捉え方する人もいるんですね。でも僕はそれは違うと感じていて。両方どっちも同じくらい大切な価値があるやんって思ってるんですよ。別にどっちが上とか下とかなくて、遊びや趣味で撮っててもいいし、表現として撮ってても全部良くて、全部同じぐらい素晴らしい価値があると考えてて。僕ら2人としては、もともとデザイン出身っていうのもあって、もちろん表現としての写真も大好きなんですけど、全力で遊ぶってめっちゃ大事やと思ってるんですよ。友達がいると楽しいし、やれることも広がってくるので、そういう意味でイベントやってるっていうのはありますね。
——Photolabo hibiとしてのこれからの展望ってどのように考えてらっしゃいますか?
恵津子:これから先はもう少しイベント寄りにしていきたいというか、そっちをバージョンアップさせていきたいですね。
貴之:今ってハッシュタグとか検索ってめっちゃ便利じゃないですか。自分の欲しいものとか知りたい情報ってわりと早く見つかりますよね。それに付随してあなたへのおすすめはこれっていうのも出てくるし。でも、自分が探していない物事とか知らない情報の中には、全然違う価値とか面白さってあったりして、そういうものに「出会うこと」と「写真」っていうのをPhotolabo hibiっていう場所が繋げられることで、もっと写真が楽しくなったり、新しい遊び方が生まれるようになると思うんですね。そういう場所をこれから作っていきたいですね。
Photo&Text by Tsuyoshi Hasegawa(INDY | Instagram)
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